●大川村だけじゃない地方議員の会報告書


1 会の発足の発端
人口約400人の大川村で、村議会議員選挙において、議員立候補者のなり手がないという事態が懸念されて、このままでは議会存続が危ぶまれる状況に至った。
これに危機感を持った朝倉慧大川村議会議長が議会を廃止し、地方自治法に基づく全住民を対象に直接意見を聞く村会にすることも検討すべきではと提起し、論議を巻き起こすとともに、県内の現職市町村議会議員有志に声をかけて、議員なり手問題を検討しようということになり、大川村議会朝倉慧議長、高知市議会川村貞夫議員、越知町議会武智龍議員、中土佐町議会佐竹敏彦議員を発起人として「大川村だけじゃない地方議員の会」を設立した。

2 会議
発起人による準備会を重ね、以下の7回開催。
1 平成29年8月30日  15市町村 49人
議員のなり手不足問題
2 平成29年11月30日 15市町村 28人
若手、女性議員の声
3 平成30年6月29日  15市町村26人
議員アンケート結果報告
4 平成31年1月18日  12市町村 26人(町村議会議長会会長、事務局長)
KJ法での議会改革案
5 令和元年11月1日  15市町村  24人
議員の処遇改善案
6 令和2年2月28日  10市町村 17人
中間報告書案の検討
7 令和3年11月26日  県議会 10市町村 20人(県議5人)
県議と市町村議の協議

3 県内34市町村議会423議員へのアンケート調査
この会は、大川村の議会の存続の是非をめぐるそうした緊迫した中で、その背景や条件を探る目的で結成され、様々な視点から検討してきた。
令和元年に発生したコロナ禍で、会議を開くことがなかなか出来ない状況が続き、この際にと県内34市議会議員に意識調査を行うことになり、令和3年、県内34市町村議会議員423名に、議員報酬や議員定数の多寡、女性議員クオータ制、政務活動費や議員年金、議員勉強会の可否、勉強会内容希望に関する7項目にわたってアンケート調査を行った。
この調査は、市町村議会議員の現職に対して、議員としての立場でどのようにどのように考えているか、生の意見を聞く初めての試みである。

回答者111名、回答率26.2%(12月24日現在)。
アンケートは、各市町村議会の事務局を通じて行った。事務局職員アンケート調査に対する温度差があったという事が後に判った。
それにも関わらず、市町村議会議員対象の任意の団体の任意の調査で全議員の3割弱の回答が寄せられたのをどう見るかだが、凄いものがあると判断したい、何らかの意識を持っているという証でもあるからだ。
結果は以下のとおり。
議員報酬は安すぎると回答した者が50%と半数を占め妥当としたものが39%、議員定数は66%が妥当な数と回答、少なすぎると答えた者が21%、多すぎるが13%だった。
議員活動の財源である政務活動費の必要性を6割が認識している。ということは、政治活動に一定の保障の必要性を感じているという事だろう。
議員年金は64%が認めているが、議員のなり手問題としても大事なところで、議員退任後の生活保障の必要性を議員自身が特に感じているものと受け取る。  34市町村議会で議員年金制度化に向けて国に意見書の議決が為されてきた中で、35%が反対の意見があるという事に、根深い批判があるものと見る。
議員勉強会は70%が実施希望で、今後何らかの形で実施していくようにしたい。
女性議員に対するクオータ制は、不必要と思う者が57%で、ジェンダーフリーや男女共同参画社会などいろいろ言われているが、クオータ制はまだまだ制度として成熟していないという事だと思われる。

4 議員のなり手、議員定数・議員報酬の問題
議員定数は地方自治法により、自治体が条例で独自に定める。
高知県の36市町村で、定数は高知市の34人を筆頭に大川村6人という定数である。
大川村では定数6では委員会活動に支障があるという事で、定数が少ない場合には少ないだけの問題も指摘されている。そういう点で、議員定数は議会運営上での問題だけではなく、地域の声や立候補上の問題とも絡むもので、議会費節減の立場からだけの論議は避けるべきである。
議会経費の上からは、定数削減が通常の見識であるが、かと言って、それが正解か妥当かといえば必ずしも是とは言えないものがある。
特に、高知県では地形上から、地域的に様々な歴史や文化を育んで来ている。それぞれの伝統があり、それぞれの地域的課題があるにも関わらず、定数削減はそれを排除するという事でもある。
議員の酬は、議員報酬、費用弁償、期末手当のほかに委員長手当や政務活動費のあるところもある。
高知市の585,000円が最大で、最低は北川村の163,000円。市議会の最低は室戸市の260,000円。町村議会の最高はいの町214,000円である(月額、平成27年)。全国平均は、812市議会414,000円(平成25年全国市議会議長会)、927町村議会210,000円(平成26年全国町村議会議長会、日当制の福島県矢祭町除く)。高知県議会議員の議員報酬は期末手当含め年額1162万円(平成30年)。
議員報酬で住民批判の強いのは、議員報酬が高すぎるというものである。「住民は、「国民年金」の65,000円程度で暮らしている、議員は何をしているか、顔が見えない、高い」という批判非難である。
議員個々人にとって、それぞれの立場で議員活動を行っている。にも関わらず有権者の一人ひとりには議員の声が届いていないという事になるが、これは支持していない議員の政治活動には無視や無関心ということにも繋がる側面でもある。
そういう中での選挙であるが、近年投票率の低下は否めない。
有権者の最も多い県都でもある高知市では、都市化現象とも相まってその傾向は強く、投票率が30%台ということも珍しいことではない。そういう選挙状況の中での住民の声は我々議員にとっては、議会不要論を含め議会制民主主義の在り様に否定的な声に直面する。

5 結論
議員のなり手問題は、特に町村議会で大きな課題となっており、その大きな要因が議員報酬にあるのではないかということが挙げられる。
仕事を持っていれば、企業や経営の主力としての欠落は大変な痛手であり、かつ当人にしてみれば、今の給与や賃金を捨ててまで、議員に立候補することはできないということである。
このことが解消されなければ、なかなかなり手不足解消には至らないということが数々の論議の中で分かった。
地方議員や市町村長等に立候補しない理由とは何か。
いろいろ言われるが、一言、不安定であり低所得だという事に尽きる。高学歴者の就職先は、田舎では地方公務員や有名地場産業、地元新聞社、銀行等金融機関、報道機関や農協等といった高収入で将来性のある企業や安定的な団体であり、地方で優秀な者ほど親を含めこの傾向が強い。学歴が高く優秀な人材や地元名士にこの傾向が強い。
「大川村だけじゃない地方議員の会」としては、今まで積み重ねた会議やアンケート等で一定の考え方が整理された。
発端となった大川村では、地方自治法にいう兼職禁止規定を検討し、兼職可能なものについては制限を緩和あるいは廃止して、議員の立候補要件を整理。立候補者も出てきて、村議会廃止の危機は回避された。この会としても、当初の目的は解消された。
だが、なり手問題の本質は解決されたわけではなく、また、地方議員としての在り様についても課題を残している。
今回を以って当会は終了とするが、アンケートにもあるように7割近くが勉強会を続けたいという意向もある。引き続き形を変え、議員の勉強会を開催していくことを提起して報告書としたい。

補論 
NHKが平成31年の統一地方選の際に行った、地方議員約3
2000人に行ったアンケート調査(回答率59.6%)を基にした「地方議員は必要か 3
2千人の大アンケート」(文春新書)で、議員報酬引き上げを回答した者は、市議75%、町議79%、村議81%である。市町村議会議員の8割程度が議員報酬の増加を希望しているという事がいえる。
「町議会議員の報酬で生活するのは大変。ましてや家族がいる場合は特に思う。国民年金、健康保険を払ったら手取り10万円程度。生活ができない、アルバイトしたりで何とか生活している。町のためにという志で何とか頑張っているが、精神的にも肉体的にも限界」という30代の北海道の男性町議の声が載せられている。大半の議員の本音だと思う。
議員のなり手に絡めて、「町村議会議員報酬が極端に安すぎる。我が町は手取り20万円、他に収入があるので何とかやっていけるがそれ以外の人はやっていけない。若手がなりたいと思うには、世間一般的な収入にしないと良い人材も選挙に出てこない」という意見には現職町村議員には頷けるものが多いのが実感だ。
近年の政治の不信を思うにつけ、選挙に出て政治を変えたいと思う若者もいるとは推測されるが、霞を食っては生きてはいけない、理念よりも生活が大事、無い袖は振れない、というのが実態であろう。
こういう声を受けて、一旦廃止になった議員年金の復活が叫ばれ、高知県内でも議員年金復活の意見書がほぼ全議会で決議されている。
また、議員活動に必要な経費である政務活動費についても、町村議会でも制度化の意見も出て来ているところでもある。

「日本の地方議会」(中央公論新社)には、女性議員の意見としてではあるが、立候補の当たっての課題で6割の人が知名度を上げている。
市部の議員は議員専業者が5割強であるのに対し、町村議員は3割が農林業従事者でこれに商工業者が加わり、多数が自営の者という事になる。町村部の議員のリクルート先はこういう先細りの職業従事者であり、供給困難な状況にあるという事が見えてくる。
住民から見れば年金等と比較して議員報酬額の多寡を評論しているが、議員からすれば議員としての費用が賄われていないという相反する状況にあるのが、なり手、定数、報酬の関係である。
蟹は甲羅に似せて穴を掘る、と言われる。
人間も自分の力量に応じた言動をするということの喩に使われているが、有権者と議員、議会の関係も一緒である。
資質や能力に長ける人材を議員として育てていくには、それなりの環境整備が必要だ。
議員報酬は多く、立候補しやすい定数にするという事にならなければ、立候補の地盤は特定のところに絞られてくるのは必然である。偏った意見が当該地域の政治という事になり兼ねない。
政治とても人の子のである議員により行われるもの。食べていけなければ、そもそもの政治が成り立たない。議員立候補も同じ、安心して生活が出来てこそ議員のなり手も出て来よう。
今の時代、無償ボランティアのなり手が問題であり、地方議員だけの問題ではない。公のために身を犠牲にして、という人の善意に頼れる時代ではなくなっている。
それにふさわしい報酬があってこその時代である。
高報酬であればそれを求めて立候補者もでる。
議員報酬については、議論の中で、家族を含む生活費保障と議員活動費を分けて、議会費として予算化の提起があった。
論議の過程で、現行議員の、特に町村議会議員の報酬の問題が提案された。生活費部分は生活保護費と同とレベルで国費として全国一律に支給対象として、議員活動の経費は当該市町村の負担として様々な支給体制とするもの。これで、議員当事者の議員経費は最低限確保できるのではないか。
「選挙の時にしか顔を見せん」、「高い給料でいいよな」。そういう声をよく伺う。
要は、住民からすれば、議員定数にしても議員報酬にしても、いずれも削減ベクトルが働く中にあるという事である。
議員は住民の声を政治に反映することも大きな仕事。日頃の議員としての地域活動や自己研鑽が地方議員としての評価となり、議会の信頼度の向上に繋がる。
「議員の資質を上げるべき。議員資格試験も取り入れてもいいのでは」という東北60代の町議の主張もあるところ。
今後の取り組みの議題でもある。




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プロフィール

佐竹敏彦(さたけとしひこ)

田舎の宝を取り戻す!

昭和26年7月11日生まれ、上ノ加江小中学校、須崎高等学校、高知大学卒業。高知市役所に35年勤務。

高知市社会福祉協議会の職員としての経験やノウハウを活かし生まれ故郷中土佐町の発展を目指す。

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